「ちょっと先生!収入が106万円を超えると、社会保険料で手取りが14万円も減っちゃうって聞いたんですけど本当ですか!?最近ニュースではこの壁が撤廃になるって話も聞きますが、その辺はどうなんでしょうか。」
私の事務所に駆け込んでこられたのは、パートタイマーの労務管理に頭を悩ませているという経営者のAさん。確かに、この「106万円の壁」問題で悩む方は後を絶ちません。
実は私も、ある企業で10社以上の子会社の労務管理を一括管理している経験から、この問題に関する相談を数多く受けてきました。社会保険への加入義務が発生することで、従業員の手取り収入が大きく減少したり、事務作業が煩雑になったりと、企業の成長を妨げる大きな課題となっているのです。
本記事では、「106万円の壁」の今後の動向や、実際の影響額、さらには人事労務担当者の負担を軽減する具体的な解決策まで、徹底的に解説していきます。
103万円のかべについてはこちらの記事も参照してください。
なぜ今、106万円の壁が注目されているのか?
2024年11月現在、厚生労働省は106万円の壁の要件である年収106万円という要件を撤廃する方向で最終調整に入っています。ところがもう一つの要件である労働時間週20時間以上という要件は残るようですので、金額ではなく労働時間での制限にすり替わっていくと思われます。
106万円の壁とは何か?
106万円の壁とは、パートやアルバイトの方が以下の条件を満たす場合に、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられる年収の基準額です:
- 月収が8万8000円以上(年収換算で約106万円)
- 週の労働時間が20時間以上
- 勤務先の従業員数が51人以上(2024年10月から)
- 雇用期間が1年以上見込まれること
- 学生でないこと(夜間学生・休学中は除外)
106万円の壁を超えるとどうなる?
具体的な影響額
年収が106万円の場合、106万円の壁がある場合と無い場合での税金や保険料の支払額の違いを具体的に計算してみましょう。
106万円の壁がある場合
- 社会保険料: 年収106万円を超えると、社会保険料が発生します。標準報酬月額が8.8万円の場合、健康保険料は
106万円÷12か月×約28%÷2(従業員折半)=月額約12,490円(年間約15万円) - 所得税: 年収106万円-給与所得控除55万円-基礎控除48万円-社会保険料控除15万円=課税所得0円
となり、所得税は発生しません。 - 住民税(所得割): 所得税の計算と同様で、課税所得は0円ですので住民税も発生しません。
- 住民税(均等割): 具体的な金額は居住地によります。一般的には5,000円程度
- 手取り収入: 年収106万円 – 社会保険料15万円 – 住民税5,000円 = 約90万5,000円
106万円の壁が無い場合(仮定)
- 社会保険料: 社会保険料の支払い義務が無いため、支払いはありません。
- 所得税: 年収106万円-給与所得控除55万円-基礎控除48万円=課税所得3万円
3万円×5%=1,500円 - 住民税(所得割): 年収106万円-給与所得控除55万円-基礎控除43万円=課税所得8万円
8万円×10%=8,000円 - 住民税(均等割): 具体的な金額は居住地によります。一般的には5,000円程度
- 手取り収入: 年収106万円 – 所得税1,500円 – 住民税(8,000円+5,000円) = 約104万5,000円
差額
- 差額: 106万円の壁がある場合の手取りは約90万5,000円、壁が無い場合の手取りは約104万5,000円で、差額は約14万円です。
負担増: 106万円の壁がある場合、年間で約15万5,000円の社会保険料・住民税を支払う必要があります。一方もし社会保険料が無ければ所得税と住民税で15,000円ほどです。具体的には、106万円の壁がある場合と無い場合で、手取り収入において年間で約14万円の差が生じることになります。
メリットもある?社会保険加入の恩恵
一方で、社会保険に加入することで得られるメリットもあります:
- 傷病時の手当金
- 連続して4日以上休んだ場合、標準報酬日額の2/3が支給
- 最長1年6ヶ月支給
- 産前産後の手当金
- 産前42日、産後56日の期間、傷病手当金と同様の給付
- 年金受給権の確保
- 厚生年金加入期間に応じた年金額の増加
- 将来の年金受給権の確保
106万円の壁への対応策
企業側の対応
- 労働時間の調整
- 週20時間未満での雇用管理
- シフト制の見直し
- 繁忙期対応の再検討
- 給与体系の見直し
- 基本給と諸手当の構成比率の見直し
- 通勤手当(非課税所得)の活用
- 賞与支給時期の分散化
- 人員配置の最適化
- 業務の再分配
- マルチタスク化の推進
- 正社員とパート社員の業務分担見直し
従業員への説明・サポート
- 丁寧な説明の実施
- 個別面談の実施
- 収入シミュレーションの提示
- 社会保険加入のメリット説明
- キャリアパスの提示
- 正社員登用制度の案内
- スキルアップ支援
- 給与アップの条件明確化
実務担当者向けの具体的対応
労務管理のポイント
- 労働時間管理
【週20時間の管理表例】
月間労働日数:20日
1日の労働時間:4時間以内
休憩時間:適切に確保
残業:原則禁止
- 給与計算の注意点
【給与計算チェックリスト】
□ 基本給の確認
□ 通勤手当の確認
□ 時間外労働の有無
□ 社会保険料の試算
□ 手取り額の確認
システム活用のポイント
- 勤怠管理システム
- 労働時間の自動集計
- アラート機能の活用
- 月次報告の自動化
- 給与計算システム
- 社会保険料自動計算
- 給与シミュレーション
- 年間収入管理
今後の動向と対策
2025年の制度改正
2024年11月現在、厚生労働省は106万円の壁の要件である年収106万円という要件を撤廃する方向で最終調整に入っています。
ところがもう一つの要件である労働時間週20時間以上という要件は残るようですので、金額ではなく労働時間での制限にすり替わっていくと思われます。
時期としてはを2025年の制度改正で要件を撤廃する方針のようですが、具体的な時期についてはこれからの発表を待ちましょう。
長期的な視点での対応
- 人事制度の整備
- 正社員転換制度の確立
- 職能資格制度の導入
- 評価制度の見直し
- 業務効率化
- デジタル化の推進
- 業務フローの見直し
- アウトソーシングの活用
まとめ:今後の対応方針
- 短期的な対応
- 対象者の特定と影響額試算
- 個別面談の実施
- 必要書類の準備
- 中期的な対応
- 人事制度の見直し
- システムの導入・更新
- 業務フローの整備
- 長期的な対応
- 人材育成計画の策定
- 給与体系の見直し
- 働き方改革への対応
おわりに
106万円の壁は、一見するとデメリットが目立つ制度かもしれません。しかし、適切な対応を取ることで、むしろ企業の成長機会として活用することができます。
- 従業員の処遇改善
- 人材の定着率向上
- 業務効率の改善
これらの課題に真摯に向き合うことで、企業としての競争力を高めることができるでしょう。
しかし、これらの対応を一社で進めるのは決して容易ではありません。特に、制度への対応や従業員とのコミュニケーションには、専門的な知識と経験が必要です。
私たちの事務所では、このような課題に直面する企業様向けに、無料相談を実施しています。106万円の壁への対応でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。経験豊富な専門家が、御社の状況に合わせた具体的な解決策をご提案させていただきます。
お気軽にお問い合わせください。
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